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信号待ち

 1990年代の中頃にロスアンゼルスに勤務していた時、かなり長い期間に渡って仕事上頭を悩ませていた事があった。前任者が解決を先延ばしにしたままにしていたトラブルを引き継いだのだが、私自身もうまく解決できないまま1年以上の時間がたってしまっていた。
 ある日のお昼どき、そろそろこれは何とかしなければ大きな問題になりそうだと考えながら鬱々とした気分で一人でオフィスを出た。近くのピザ屋のカウンターで3ドルくらいのピザのピース2切れに乾燥させて細かく刻んだ唐辛子をたっぷりかけて、コーラで流しこみながら方策を考えていた。
 いい考えが浮かばないままうかぬ気持ちで店を出ると、気分とはうらはらに空はあくまで青く、乾燥した空気がいかにもカリフォルニアらしかった。ブラブラと歩いてオフィスに向かい、途中の信号が赤だったので立ち止ってぼんやりしていた目の前を、ゆっくり乗用車が通りすぎた。ふと見ると、後部座席の子供が窓ガラスに額をくっつけて私をジッと見つめているのに気がついた。
 5歳か6歳くらいだろうか、明らかに知恵遅れと分かる子供だった。運転しているのは、その子の母親だろうか。子供は窓ごしに私の方を無心に見つめていた。車が行きすぎても、ずっと私の方を見ている。表情の乏しいその顔からは何も読み取れなかったが、私は「あっ」と思った。「何で自分はこんなつまらない事で思い煩っていたんだろう」と。いままで心の中でわだかまっていたものがパチンとはぜて、前向きな気持ちがわいてきたような気がしたのだ。気持ちの持ちようがほんの少し変わっただけだったが、そのちょっとした心の変化がその時の私にとってはありがたかった。
 もう20年近く前のほんの2〜3秒の出来事だったが、今でも信号待ちをしていると、あの時の子供の瞳と、カリフォルニアのまぶしい太陽がフッとまぶたに浮かぶ事がある。

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